世界遺産(日本建築家協会に参加して)

橘川雄一|2013.8
ICOMOSが富士山(富士五湖等を含む)を"世界遺産"としてユネスコに登録するという情報が伝わった。私が育った"三保の松原"も当初"除外"と言う報が伝わったがユネスコ会議で"一体"として認められた。これで富士山もやっと世界遺産になったかという思いは強い。
この世界遺産の事で、日本での需要な役割を持っている山名善之さん(東京理科大学建築学科准教授)のお話があったのでJIA(日本建築家協会)に久しぶりに参加した。

山名さんは、コルビュジエ作品群の"世界遺産"登録を含めての「マドリッド・ドキュメント」についてお話をされた。

今回、説明会のターゲット(問題意識)は富士山とは全く違う、「20世紀に建てられた建物」である。この建築群に取り壊しの危機に面しているものがあるということから、如何に回避できるを模索する動きの説明である。

20世紀建築は、歴史的建造物の"歴史的遺跡"のように単に冷凍保存のように"保存することに意味"があるというわけにはいかず、我々の言葉でいえば"Living Heritage(使いながらの保存)"を目指さなくてならない。
山名准教授が主に話されたのはコルビュジエの作品である。
今、"世界遺産"という言葉が日本国内でも多く聞くようになっている。
2011年に小笠原諸島と平泉の遺跡が世界遺産として登録された。その地域の方々にとっては"素晴らしい観光資源"となるという意識であろうが、

我々建築家の集団が目指すのは、"世界遺産"は建物の保存を目的としている。世界遺産になれば建物が取り壊されることはないだろうという事である。そういう意味で20世紀建物として価値のあるコルビュジエの作品群を一括で"世界遺産"にしようという目論見を持っている。フランスでコルビュジエの建物を取り壊そうと考える人間はいないだろが、ほかの諸国ではあやしい。特に日本などあやしい。(保存に努力されている方々すみません)
条約というものがユネスコで1972に採択され現在188か国が加盟している。日本は1992に加盟し文科省ユネスコ国内委員会で所管されている。

世界遺産の選定基準は、
「人類の創造的才能を示す傑作であること」という登録要件があり、各国からの推薦を必要としている。

私が38歳まで在籍した前川國男事務所は上野公園にある国立西洋美術館の設計にかかわっている。国立西洋美術館はルコルビュジエが設計した建物である。コルブが日本に来たのは1回だけと言われていて、コルビュジエの基本設計に基づき前川國男、坂倉準三、吉阪隆正が実施設計と監理をしている。
それゆえその後の増築は前川國男事務所に委ねられ、私が在籍中に新館の設計委託を受けた。故に設計プロセスは十分認識している。
実は、私が辞してからの第3期の増築(西館)が今コルビュジエ設計部分(1階がピロティになっている)のauthenticity(真実性)を犯しているのではないかという指摘を受けている。"世界遺産"に値する建物要件にそのauthenticity(真実性)を保持している事が必要条件とされている。

"設計"にはいろいろな私的というものは必ずある。
設計という行為は"世界遺産"だけのために行っている訳ではない。その建物と利用者(美術鑑賞者、運営者、学芸員等)によって建物の形態は変わる。

西洋美術館のような力のある美術館(収蔵している作品のレベルの高さまた企画展で世界的な名画が来る美術館)は、美術作品展示で作品の安全性が第一優先で問われるので、その対応は当然建物に求められる。
そういう意味では、コルビュジエ設計のauthenticity(真実性)を守ることは、作品の"安全性"を守る事との闘いなのだなと思ったりしている。