"音響"という言葉

2024.2
私は前川國男の下にいて設計活動をしていたので音楽ホールの設計に関わることが多々あった。
「音響」という言葉、設計中は絶え間なく語られる。「音のひびき」の漢音読みである。
"音響設計"というジャンルがあるがホール内で観客にどの様にどの様な音が届くかを、経験的に解析的に意匠設計者と思考を繰して設計の協力をしてくださる。機能であるかを故にかホール空間は独特の形になる。
前川國男故に、東京文化会館、神奈川県立音楽堂などの名ホールがありそこでの音を聴くと舞台で奏でられる音が気持ちよく聞こえて来る。さすが前川國男だなといつも思っていた。
少し前の話ではあるが、私が関わった建築、音楽のために作った建物ではない、小さな美術館として北海道帯広に作られた建物で、竣工記念でN響四名の弦楽四重奏を聴くか機会があった。木造で北海道大学に移築して残されている"牛舎".を模築した建物で美術館として作った建物である。
その音を聴いて実は"感動"した、あまりに音が美しくて。
気付いたのだが、色々壁の反射を経ての音(所謂"音響")ではなく、楽器から直接の私の耳に届く音を聞いたのである。少人数で聴く機会がそれまでなく建築的所作ばかりを気にしていた私をえらく反省した。
もしかして19Cモーツァルトの演奏を聴く貴族はこんな環境でモーツァルトのピアノを聴いていたのかと思い、それは感動しただろうとえらく納得した。
"恩業をという言葉は、貴族だけが楽しんでいた"音楽"を広く一般庶民にまで味わわせるために作られた技術なのだろうと。
私はその技術に邁進した。そして多くの方々が"音楽"を楽しんでくださる空間を作り続けた。
とても良いことをしたと自負している。